クマがスーパーに侵入し殺処分、秋田市への苦情殺到の背景とは?
秋田市のスーパー「いとく土崎みなと店」に侵入したツキノワグマが殺処分され、多くの苦情が寄せられています。この事件は、市街地でのクマの捕獲や駆除の難しさ、そして自然保護に関する議論を呼んでいます。2024年11月30日、体長1.1メートル、体重69キロのメスのツキノワグマが、スーパーの肉売り場やバックヤードに居座り、警察や猟友会が対応にあたりました。
麻酔を使って眠らせた後、電極付きのさすまたで殺処分されましたが、「山に返してほしい」「なぜ殺したのか」といった苦情が約70件も寄せられ、市も困惑している状況です。この問題は、クマの習性や市街地における駆除の制限など、多面的な視点で捉える必要があります。
クマがスーパーに侵入した原因の一つは、近年の生息地環境の変化です。山林のエサ不足や人間活動の拡大により、ツキノワグマが市街地に出没するケースが増えています。食べ物を一度手に入れたクマは再び人里に戻る可能性が高く、今回も「スーパーでエサを得たことを覚えてしまった」という懸念がありました。そのため、市では再発防止の観点から山に返すのではなく駆除を選択したのです。
秋田市は、なぜ山に返さず殺処分を選択したのか。その理由の一つに、現行法の制約があります。市街地では銃の使用が制限されており、安全性を確保するためにわなを使用せざるを得ないのです。また、麻酔を使った場合は専門知識を持つ獣医師の免許が必要で、さらに麻酔処置後の個体を食用などに利用することもできません。これらの制約の中で、今回の対応は最善策と判断されました。しかし、この対応に対して「動物の命をもっと尊重すべき」といった声も多く寄せられています。
問題をさらに複雑にしているのは、市民から寄せられた苦情のほとんどが県外からのものであるという点です。「自然保護団体」を名乗る人々からの電話もあり、市街地での対応の難しさを理解してもらうことが課題となっています。2023年には、秋田県知事が「抗議電話はガチャ切りする」と発言したことで物議を醸しましたが、秋田市では「貴重な意見として受け止める」というスタンスを取っています。しかし、根本的な解決には、法改正や市街地での適切な狩猟方法の整備が求められるでしょう。
この事件を通じて浮かび上がるのは、人間と野生動物の共存の難しさです。ツキノワグマは学習能力が高いため、一度楽にエサを得る経験をすると同じ行動を繰り返す傾向があります。そのため、今回のようなケースでは駆除が必要不可欠とされる一方で、命を尊重する観点から再発防止策を模索することも重要です。市街地での銃の使用や学習放獣の可能性など、今後の課題として議論が続くでしょう。